ドキュメンタリー映画「坂網猟-人と自然の付き合い方を考える-」特設ページはこちら!

坂網猟

片野鴨池で300年間続く伝統猟法「坂網猟」。
木と竹で作ったY字型の網を空高く投げあげて空中のカモを捕る猟です。

猟を行うのは夕方日が暮れるころ。
カモたちが鴨池を出て、外のたんぼへ向かって山を越えて飛んでいくところをねらいます。

シルエットしか見えない中で五感を研ぎ澄まして待ち構え、羽音でカモが近づくのを察知し、瞬時に高さと方向とタイミングを合わせて網を投げ上げ猟をする様子はまさに神業です。
坂網猟は江戸時代は武士のみが行っている猟でした。

鴨池周辺を治めいた大聖寺藩は加賀藩の支藩であり、いわゆる外様大名であったため、武芸というものを制限されていました。
しかし本当に武芸を何もしないと藩の力が弱くなってしまうということで、大聖寺藩は武士たちに武芸の代わりに坂網猟をさせたといわれています。
カモを捕える「坂場」は鴨池を幾重にも取り囲む丘の上にあったため、坂の上り下りが足腰の鍛錬になるのです。
現在の坂網猟師は、暗闇でカモを待ち構えて瞬時に投げ上げる猟法自体が、居合道に通じるような精神の鍛錬になっていたのではないかと語ります。

大聖寺藩は猟をするだけでなく「田地水溜料(でんちみずためりょう)」として鴨池でたんぼを作る人々に補助金を出したり、「河廻方(かわまわりかた)」という役人を置いて行政として鴨池を守りました。
明治になり、身分制度がなくなったことで、坂網猟は一般の人でも行えるようになります。

たくさんの人が坂網をしようとしたため場所の取り合いで喧嘩が起こったり、行政の制度が変わったことで池を守る人がいなくなりました。
そこで「江沼郡捕鴨業組合」という組合を作り、坂場を決めるくじ引きやカモを守るための見張りや環境管理を行うようになりました。

今でもその組合は「大聖寺捕鴨猟区協同組合」と名前を変えながら続いています。
第二次世界大戦後には最大の危機が訪れます。

敗戦した日本各地にGHQの部隊が配備され、福井県に駐屯する軍人が銃による鴨猟を行いました。
鴨池は江戸時代から坂網だけを行ってきた場所で、周辺の池では行われていた銃猟から逃げてきたカモたちが安心して暮らせる場所でもありました。

そんな場所で銃を使ってしまったためカモは激減し、鴨池も坂網猟も存続の危機に立たされます。
そこで当時の組合長「村田安太郎」が立ち上がり、決死の覚悟で東京の本部まで乗り込んで鴨池での銃猟禁止を訴えました。
努力の甲斐あり、GHQで「鳥獣保護行政」を担当していた戦後日本の鳥獣保護政策にも大きな影響を与えたO.L.オースチン博士に理解してもらえ、鴨池ではアメリカ軍でも銃猟をできなくなりました。

このように坂網猟はカモをとるために鴨池の環境管理をし、鴨池の危機が訪れるたびに行動することで、カモを増やし現在に続く豊かな生態系を形成してきました。

カモを捕ってはいますが、鴨池を守るとても大事な力となってきたのです。

池を守る活動

現在でも坂網猟師は鴨池の環境を守る活動を続けています。

鴨池の中で昔水田だった場所は浅いので、夏になると一面草に覆われます。
雑草と言ってもマコモやヨシは人の背丈を超すほどの大きさになります。
これらを放置すると、毎年積もる草により池がさらに浅くなり、最終的には木が生えてきて森となります。

この遷移を防ぐために毎年草刈りをするのも坂網猟師です。
秋になると一度鴨池の水を抜き、気温が上がらない朝早くから集まって草刈りを行います。

水を抜くといってももともとたんぼだった泥深い池です。
雑草の株に乗りながら刈っていくというとても困難な作業となります。
株から足を踏み外すと腰まで泥に使ってしまうことすらあるのです。

そんな大変な作業を毎年続けてきたおかげで、今も鴨池は池であり続けているのです。

坂網鴨

鴨池で捕獲されたカモは坂網鴨としてブランド化され、おいしく食べられています。

坂網は無傷で捕獲した後で絞めるという猟法であるため、銃猟と違い傷がつきにくく、さらに捕獲する時間帯もおなかに餌が入っていない夕暮れ時ということで、臭みが少ないかも本来の味が味わえるということで人気となっています。

さらに、古くからこの地方には鴨料理の文化が根づいています。
昔は結婚式の引き出物にカモのつがいが使われていたり、小麦粉や片栗粉をさっとまぶしてとろりと仕上げる治部煮(じぶに)は郷土料理として今でも多くの人に親しまれています。
時たま、「鶏肉があるから鴨肉なんて必要ない」という声をいただくことがあります。

たしかに現在、鳥の肉と言えばニワトリが一般的になっています。
しかし実は鶏肉は鳥として異端な肉なのです。

普通の鳥は空を飛ぶときに酸素をたくさん使うため、筋肉に酸素をためるミオグロビンという赤い色素を多く持っています。
ニワトリはキジの仲間なので飛ぶよりもよく歩くので足が発達します。
逃げるときなどに瞬間的に強い力を発揮するための筋肉を持っているのでお肉がピンク色なのです。
マグロとタイの身の違いで想像してもらうとわかりやすいかもしれません。
また、同じカモでも養殖で育てられ、飛ぶことがないアヒルやアイガモも野生の鴨肉とは大きく味が変わります。
鉄分を多く含んだ野生ならではの赤い肉は、昔からこの地方の人々を喜ばせてきました。
伝統的な猟法で捕えた鴨肉を伝統的な料理でいただくというこれ以上ない贅沢をぜひ一度味わってみてください。